おまけSS1 ~大切な記念日~ ※ジュートハッピーエンド アフターストーリー
「う、わあ……!すごいっ、かわいい!」
「すごいこれ、ケーキ!?食べれるの?でもなんかキラキラしてる!」
「ああ、全部食べられるぞ。上の花とかリボンみたいなのも、飴でできてるし」
「へっへ~ん、すっっげーだろ!皆俺を崇めろ!さあ!」
「えっ、ジュートが作ったの!?」
「おうよ!」
「え、ええ~……嘘、信じられない……買ってきたのかと思った。作ったにしてもカラ兄がかと思った」
「ま、俺も手伝ったけどな。ほとんどは兄さん作だ」
「すごい、ジュート兄」
「だろだろ~♪つかアルト、お前は俺を舐めすぎなんだぜ!お前が思ってる5000億倍俺はすげーからな」
「ごせんおくばい、って……そういう発言がちょっとガキ臭いからあんまりすごく見えないというかなんというか」
「な・ん・だ・と~~」
「何でもない。ね、そんなことより早く始めよう」
「じゃ、灯り消すぞ。兄さん、蝋燭に火」
「おう。……よっ、と」
「わあ……綺麗!」
カラが灯りを消すと、蝋燭の火がケーキを照らし、生クリームの上のアラザンやチョコレートのグラッサージュの部分がより一層輝いた。
うちでは主役が蝋燭の火吹き消すのが決まりなんだ、とカラに言われ、私はそっと息を吹きかけた。
「誕生日おめでとう。」
「おめでとう、お姉ちゃん!」
「おめでとう。……さ、もう灯りつけるぞ」
今日はジュートと結婚して初めての私の誕生日。カラが今日は早めに店を閉めたので何事かと思っていたら、カラとジュートが誕生日会の準備をしてくれていたのだ。今思えば、閉店後アルトが執拗に私を買い物に誘ってきたのもそれを内緒で進める為だったようだ。
「さ~て、今日は飲むぞ!」
「ジュート兄、飲みすぎは駄目だよ」
「最初はやっぱ白か?あっでもお前赤好きなんだっけ?ビールもあるけどどれに……」
「カラ、ストップ。最初はこれ」
「?」
「誕生日プレゼント。……えーと、その……お前が生まれた年の、ワイン」
「……!ふふっ、ありがと、ジュート」
「お、おう」
「兄さん、ベタすぎ」
「う、うっせ!」
「俺からはこれ。はい」
「カラ、ありがとう。これ……クリーム?」
「うん、ハンドクリーム。花屋やめてマシになったとは思うけど、家事やってくれてるから水仕事で大変かなって。
えっと……いつもありがとな。」
「そんな、こちらこそ。かわいいね、これ。チョコレートがモチーフ?チョコレート色だし甘い匂いも……」
「ああそれは、そういうコスモスの……ううん、何でもない。そうだ、アルト、お前も何か用意したんだろ?」
「あ、うん。はい、お姉ちゃん、お花!お誕生日おめでとう!」
「アルト、ありがとう。チューリップだね、可愛い!綺麗な黄色」
「えへへ、でもお姉ちゃんの方が可愛いし綺麗だよ」
「ア、アルトったら……」
「こらっ!お前ら!こいつは俺の嫁なんだぞ~~!ときめかせんな!……ったく、ガキのくせにそんなクサい台詞言いやがってうらやまs……じゃなくて、けしからん!カラもイイ感じの気の使い方しやがって弟のくせに……この家は人妻キラーばっかりかこのやろー……」
「もう、ジュート。2人とも祝ってくれてるだけなんだから。」
「お、お前は鈍感すぎんの!……ってまあ、今日はいいや!仕切り直して飲んで食って飲むか!」
「ジュート、そんなお酒で流し込まずにちゃんと噛んで……はあ。カラ、アルト。ジュートがごめんね?」
「もう慣れた。大丈夫」
「そうそう、気にしないで。僕は……僕たちはもう、いいんだ。……ね、カラ兄」
「……ああ。」
「はあ~……やべ、絶対飲みすぎた」
寝室に入るや否や、ジュートはベッドに倒れ込んだ。
「ほどほどにって言ったのに。……でも、今日はありがとね。今までで一番楽しい誕生日だった」
「おう、良かったぜ。まーでも来年もその台詞言わせてやるから覚悟しとけよな。毎年記録更新だ」
「ふふ、楽しみにしてるね」
「おう!……な、こっち来いよ」
「う、うん」
「……好きだ。こうしてお前の大切な日を一緒に祝えるの、すっげ嬉しい。……ん」
「んっ……」
「……あ、あのさ。もう一個、プレゼントある」
「……このキス?」
「ち、ちげーよ馬鹿!んなもん、毎日いくらでも……ってそうじゃなくて、その……これ」
ジュートが何だか躊躇いながら差し出したのは、ピンクゴールドに光るハート型のペンダントだった。細やかな彫刻と散りばめられたジュエリーが美しい。
「わ、すご……ありがとう。綺麗、こんなのどこで売ってたの?あ、もしかしてサリーちゃんの……」
「いや、それ買ったんじゃねーんだ」
「え?」
「見覚えねーか?それ」
「……?うん、多分初めて見る……と思うけど」
「そっか……それ、貸して」
「う、うん」
ペンダントを手渡すと、ジュートはハートの側面のくぼみを押した。それはロケットになっているようで、ハートの金属が開く。結婚式の写真でも入れようかな、と期待しながら覗いてみると、そのロケットには先客がいた。
「……っ!?そ、それ……」
「……お前と、お前の母さん……か?」
「……うん」
そういえば一度だけ、幼い頃母と写真を撮った気がする。
本当に小さい時であまり覚えてないけれど、とにかく初めてカメラという機会とその不愉快なフラッシュを目にした時、隣にいたのは母だった。
でも私はその完成した写真を見たことがない。まさかそれを今になって見ることになるなんて。
「それ、どうしたの……?」
「ごめん、黙ってて。
結婚してお前とアルトが引っ越してくるとき、お前らの家の片付け手伝いに行っただろ?そん時クローゼットの奥底に落ちてて……なんか、見つけても言い出せなくて。ごめんな」
「それは別にいいけど。……ごめん、ジュート。せっかくだけど私、それいらない。捨てておいて」
「……。やっぱ嫌いなんだ?母さん」
「……あの人は、本当に酷い人なの。話したでしょ?私は絶対あの人を許せない。許しちゃ、いけないの」
「確かにな。酷い人だったらしいな。……でも”嫌い”とは言わねーんだな、お前」
「……!」
「……わかるよ、その気持ち。許せねーけど、嫌いにはどうしてもなれない、って」
「ジュートにはわからないよ!……素敵なご両親だったんでしょ」
「いや、わかる。俺も一緒。
確かに母さんも父さんもいい人だったし、優しかった。幸せな家族だった。
……でもさ、本当に最後まであの人たちが俺たちの“良い親”として生きてくれてたら、俺とカラは置いていかれてなかったんじゃねえかな」
「そ、それは……」
「母さんは、小さい俺達を守るために生きるよりも、愛する父さんと一緒に死ぬことを選んだんだ。……恨んでねーよ、俺たちが弱かったのが悪いんだし。それにまあ、あの事がなければ俺はこうしてお前と結ばれてない」
「……。」
「うまく言えねーけど、なんつーか……俺が言いたかったのはそういう事。親だって”親”である前に1人の人間で、母親もずっと”母親”ばっかやってるんじゃなくて”女”でありたい時だってあると思うんだ。まあ、お前の母さんは極端すぎだし、許されない事沢山やってきたんだろうけど……きっと娘のお前を捨ててでも、叶えたい恋があったんだよ。そしてそれを失って、どうしようもなく悲しくて逃げるしかなかった」
「叶えたい、恋……」
「わかんねーけどな。お前の母さんに会ったこともねーし。てかごめん、なんか説教臭いよな。酒入ってるし。
でもさ、俺馬鹿だけどこれだけは俺他の奴らより知ってんだ。恋は人を動かす。良い方にも悪い方にも。お前も知ってるだろ?俺は死ぬほど……死んでもいいから仇討ちしてえって思ってたのに、いつの間にかお前と一緒に居るためにどうしても生きてえって思うようになってた。
そう思う力であんな深かった背中の傷も今じゃ痕しか残ってねえよ。すごい力じゃね?お前に、恋したからなんだぜ」
「ジュート……」
「だからわかるんだ。俺もお前のことになると他の事何も考えられなくなる。何するか、ほんとにわかんねー。もしお前がいなくなったらって……考えるだけで死にそーになる。
お前の母さんもそんな気持ちなんじゃねーのかな。お前のことが嫌いで出てった訳じゃねーんじゃねーかな」
「そう、なのかな……」
「そうだ、きっとそう。見ろよこの写真。お前はカメラのフラッシュで目瞑ってるけど、母さんすげー幸せそうな顔してる。
こんなに大事そうに、小さいお前抱えてさ。」
「……!ほ、ほんとだ……」
「真相はわかんねーけど、良いように考えて待つのはタダだろ?そしたらいつか母さん帰ってきて、謝ってくれるかもしんねー。待とうぜ、一緒に。俺もお前の母さんが安心してお前を預けられるって思うような立派な男になる。頑張るから」
「……もうなってるよ、十分すぎる……」
「ん?……ってあれっ、おい、泣いてんのか!?」
「なっ、何でもない!
えっと、じゃあ頑張ってね、ジュート。私もいいお嫁さんになれるように頑張るよ。
……このペンダントありがとう。着けるのは……まだごめん、できないけど。自分で持っておくね」
「うん、それでいい。俺は結婚指輪着けてくれるだけで十分だし♪
……でさ、一個提案なんだけど」
「ん……ふわあ……何?」
「いいお嫁さんになんのもいいけど……その、あの……」
「……」
「お、おおお母さんに!なるって、いうのは!ど、どうですか!」
「……」
「……」
「……すー、すー……」
「え」
「すー、すー……」
「ええええええええええええ!?そんなオチありかよー!?おやすみ!いい夢見ろよ!」
THE END